もてなしの料理
祝い事や法要など人生の折々に彩りを添えてきた食文化。その土地ならではの料理には、地元でとれる食材とそれを生かす人の知恵によって育まれてきた風土の恵みがいっぱいに詰まっています。
誕生して30周年を迎えた八松苑の前身は、仕出し屋です。歳時記にまつわる行事にも、お祝い事や法要にも、人が集う場には、必ず料理があります。そのような場に登場する華やかな料理や寿ぎの意味を込めた一皿一皿、または故人をしのぶ思いを重ねた品々を、郷土の食材を使い、風習をふまえて作り続けてきたのが八松苑なのです。
季節や人生の節目の行事が次第に自宅で行われなくなって公共の施設や式場に移ったのに伴い、八松苑も専用の場を設けて食をふるまうようになりました。先にハードがあったのではなく、料理をよりよい環境で味わってもらうための場を設けたということです。ですから、結婚披露宴に関して言えば、レストラン・ウェディングの先がけでもあったのです。
食のプロとしての姿勢は、三十周年を迎えてさらに深まり、結婚式場「センテレオ」の婚礼料理の献立も、より季節感や素材感を取り入れたものを提供しようと準備が進められています。ブライダルメニューというと、ややもすると決まりきったパターンの料理が並ぶことになりますが、春夏秋冬の移ろいに合わせ、時季に合った品々をメニューに加えていくという試みです。
地場でとれたての旬の食材を使うことで、地元からのゲストは地域の食材の魅力を改めて味わうことができますし、遠来の参加者も北陸ならではの旬を楽しむことができます。いわゆる「宴会料理」とはひと味違う、季節感にあふれた一品一品でのもてなしは、招かれた人の顔がほころぶような、料理のおいしさそのものが披露宴の演出となるような、晴れの日にふさわしい心のこもったエッセンスとなるでしょう。
顔の見える提供者から素材を仕入れるというのは、「八松苑」という名がつく以前からの、変わることのないこだわりです。現在も、八松苑の坂井浩明社長や川田義明料理長が、朝早くから市場へ足を運び、自分の目で素材を見極めるのは、このためです。
ここ数年、食の安全性や信頼性が大きく揺らぐような出来事が次々と世間を騒がしていましたが、顔の見える生産者や提供者から仕入れた素材で、ごまかしのない料理をつくっていれば、そうした問題とは無縁でいられるはずなのです。
八松苑が開業三十周年を機にスタートさせた生ゴミのリサイクルは、環境に配慮することで地域の一企業としての在り方を考えるとともに、究極の「顔の見える提供者」のもとで素材を育てることにもつながっています。
バイオ菌によって天然肥料化された生ゴミは、自家栽培の畑で利用され、畑では坂井社長の母親である先代夫人が、心を込めて一つひとつの野菜を育てています。そうして育った栄養価の高い地物は、八松苑の食卓にのぼります。生ゴミとなった部分があれば、再び土に戻って肥料として次世代の野菜を育みます。旬の食材をより提供場所に近いところで手に入れることは、健康によいだけではなく、新鮮で風味もよく、食材を運ぶためにかかるフードマイレージも少なくてすむという長所につながります。
こうした取り組みや旬の素材の話題は、八松苑公式ホームページにつづられるスタッフブログからもうかがい知ることができます。
八松苑が手がける数々の試みは、長い間、おいしくて安全な旬の味わいを提供し続けてきた土台があるからこそ叶うことです。素材を提供する人の顔が見えて、食べる人の顔がすぐそばに見えるからこそ、食へのこだわりは揺るがないのです。
(ファーボ2008年6月号掲載)